時には誰かを

授業中に教授が映画の話をしていた。

「この間、嫁さんと一緒に映画を見に行ってね」と。

そのとき私も映画に見に行ったことを思い出していた。

 

 

その映画は見た時少々退屈はしたけど、別に面白くない映画ではなかった。私が映画をあまり観ないと言っていたことを気にしてくれていた当時の恋人は、私に「映画どうだった?面白かった?」と私の手を握りながら尋ねた。

少々気取っていた私は「うーん、まあ、いいんじゃないの。普通かな。」と答えた。

彼は「えぇ…そっかあ。そうかぁ。」と答えたような気がする。彼は映画が大好きだった。「映画が観たいなあ」という度に私は「じゃあ観に行ってくれば?」と答えていたのを思い出す。秋風よりも冷たかった。この日遊んで以来、あまり会わなくなって別れた。

 

全然大した話じゃないけど、もしあの時私が「面白かった。また一緒に映画観に行こうね。」と言っていたら。

もちろん、その一言だけで何もかも決まった訳では無い。

でも、もしあの時私がそう言えるような人間だったら。

 

 

あの時こうしたら良かった、もっとこんなことが言えていたら、もっと頑張っていたら、この試合に勝っていたら、今よりも明るい、違う未来があったのではないか。たまに、そんなことを考える。

 

この話を誰かにすれば、そこから始まる恋や友情もあったかもしれない。

でも、そんなことすらしたくない。この記憶もいつかは無くなってしまう。だからここに残しておく。

 

今年がもうすぐ終わる。